紀行、小説のノベログです 日々感じていることを盛り込み綴っています

「自転車と列車の旅の追憶」 紀行 完
「大海原」 紀行 完
「家族」 小説 完
“Soul bar-IORI” 短編小説 完

Primo piatto 言葉

 
   曇り空は遠く水平線との境をあいまいにし、薄っすらと浮かぶ島々をより幻想的に映し出している。晴れた日にはその美しさがあり、また雨の日もしかりである。


 やがて県境を越え松原が覆う。このとき雨が少しだけ降り出したのだ。日本三大松原のひとつで、4km以上に及び見事な景観を作り出している。もちろん自然ではなく人の手によって植えられたもので、多くの風、波から災害を最小限に留めてきたのであろう。人が授かった知恵は、このように使われるべきで、ここまでに留めておくことが適当なところなのであろう。


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 本来の目的を大きく外れ、利権や欲を絡めた行き過ぎた行為は必ず破滅を伴う。私の住む三重県も長良川に塩害を防ぐ名目で堰が造られたが、見苦しい景観を伴い、生態系を狂わせ死の川に導くのだ。堰付近で見られたシジミ漁はもう見ることは出来ない。


 松の木に助けられたのか、松原を抜けるとかなりの降雨で、雨具の着用が必要だ。近くの駅に立ち寄り雨具着用で宿の取れる街に急ぎ、10分ほどで市街地に到着でき、一軒目のビジネスホテル千歳に飛び込み部屋が確保できたのだ。


 宿は大資本の経営ではなく、家族で営む様子が伺われ落ち着いており、出迎えてくれた女性もすごく綺麗な方だ。宿帳を記入していると、自転車はこちらにと、以前喫茶店をしていたと思われるスペースを空けてくれたのだ。とても気の利く女性だ。大資本の充実した設備も価値はもちろんあり、それを好む人もたくさんいる。しかし私は好きだな、この雰囲気。


 しばらく部屋でくつろぎ、夕食も兼ねて街の散策に出かけようと、フロントで鍵をわたすと、傘を持っていないことを察知し、お使いくださいと借り受けたのだ。この女性の対応はすべてが先手であり、しかも押し付けではなく自然に流れている。とても素敵な宿が見つかった。


 駅とは逆に向かい商店街を散策したが、多くの店がシャッターを閉ざし活気は見られない。定休日には思えない店がほとんどで、多くの地方都市に見られる現象なのであろう。地名からは中国との国交が盛んに行われ、古来より活気に満ちた街であったことは容易に想像が出来る。近代化とは何を残していくことなのか、私にはわからないことが多すぎるのだ。
 商店街の外れに小さな寺院があり、入り口の掲示板に書かれた言葉が印象的であった。

 「美しいのは花そのものではなく、そう感じる心である」


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